しおのみちのはなし
絹の道より、はるかはるか昔から、塩の道というものがあった。人のいのちの素を運んだ道である。人の生きているところには、かならず通った道である。海から山へとのびた、多くは名もなき道である。
その道は塩を運び、やがていろいろなものを運ぶようになった。人が生きていくのに欠かせない、多くはない幾つかのものを。草の根の生活の知恵も、素朴な神様も、その中にあった。
塩の道では、塩といろいろなものが交換された。塩の道は人類最初の交易の道であった。塩という最も貴重な海の幸によって、コメやムギやキビやアワやヒエや、ヤサイやマメやイモや、多くの陸の幸を手にいれることができた。塩は貨幣であった。まだ世の中が自然にあふれ、人間の欲望が小さかったころ、人々はそんな道で満ち足りていた。幸せは空気のようなものだった。
やがて、人間の欲望が大きくなり、戦の道が拓かれていった。たたかい奪いとる道である。広大な戦の道は、兵隊を運んだ。きらびやかな着物や便利な機械を運んだ。法律や貢ぎ物を運んだ。神様も偉くて恐いものになった。いのちにとって何の価値もない黄金が貨幣となった。人々はこの限られた宝を奪い合い、ため込んだ。戦の道では幸せは珍しいものになった。
もう幾千年になるだろう、塩より黄金が力を持ってから。もう幾万年になるだろう、人々が空気のような幸せを忘れてから。
塩の道は、いのちの道である。幾十億年の昔から、地球のいのちを育んできた、いのちの素、塩、海の精。
感じよう、生きて在ることの幸せ。始めよう、新しき塩の道。
(CD「しおのみち」三の巻「しおのみちのはなし」より)
塩の道クラブ代表 村上譲顕
(むらかみよしあき)
|